コラム

2017.10.10

国際資格CMPのコラム第31弾「Professionalism」


当社社員がお送りする、ミーティングプランナーの国際資格(CMP)をテーマにした「MICE Japan」の連載第31弾です。最終回は、プロフェッショナルとして行動することについて考えます。CMP(Certified Meeting Professional)は、約2万団体・10万名が属する世界最大のMICE産業団体Convention Industry Councilが認証する、ミーティングプランナーの国際資格です。

Sub Skill 30.01 – Demonstrate ethical behaviour

CMP出題頻度:2問(合計150問)


どの産業においても、プロフェッショナルとして行動することには、「どう働くか」、「どう見られるか」という2つの側面が含まれます。ミーティング産業のプロフェッショナルが取るべき行動には、下記のような要素があります。

(1)豊富な知識を持つこと
(2)人やビジネスそのものに対して公平であること
(3)高い水準を保つこと
(4)生涯学び続けて、業界に貢献すること

プロフェッショナリズムを示し倫理を守ることで、プランナーは業界での評価を守り、業界そのものの印象を高めることになります。Event Industry Councilに加盟するさまざまな業界団体では、このプロフェッショナリズムを示すための行動規範をまとめており、また同時にプランナーとしてはクライアント組織の行動指針も念頭に置くのがよいでしょう。基本的なプロフェッショナル行動規範には下記のような要素が含まれます。

  • 情報開示とコミットメント
  • チームワーク:多様性の尊重、公平であること
  • 顧客・サプライヤーの良好な関係
  • 自己管理
  • 適切なコミュニケーション
  • テクノロジーの適切な活用
  • 当事者意識
  • 責任ある財務管理
  • 地元コミュニティへの配慮

倫理的行動

Sub Skill 30.01 – Demonstrate ethical behaviour

倫理(ethics)とはなんでしょう。グローバルエシックス協会(Institute for Global Ethics)を設立したKidderによると、倫理とは物事を判断する際の「価値」であると考えるのがよく、宗教や社会階層を越えた5つの価値=honesty、responsibility、respect、fairness、compassionに集約されるとしています。ミーティング産業における倫理問題の事例は次表のとおりです。

表1. ミーティング産業における倫理問題の事例

Honesty ファムトリップやホステッドバイヤーに参加する際の条件順守
コミッション、ロイヤリティ等の情報開示
提出された企画提案書の情報を第三者に開示しない
Responsibility ステークホルダー、環境、地元コミュニティへの影響に対して
責任を持つ
適切なタイミングでの情報開示
説明責任
Respect 多様性を尊重する
商談会で許可なく非公式イベントを開催しない
(suitcasing/outboarding)
高圧的な態度を取らない
Fairness 公平なビジネス交渉、フェアトレード
適正な労働環境
サプライヤーに無理な要求をしない
透明性
Compassion いじめや虐待を目撃したら必ず声を上げる
地元コミュティへの貢献

ミーティング産業における倫理問題にはさまざまなものがありますが、主要な事例をいくつか見てみましょう。

(1)交渉について

ビジネス交渉を行う際、プランナーは所属組織にとって可能な限り高い価値を得られるように努力するとともに、その交渉プロセスで取った行動によって組織が不名誉をこうむらないよう意識する必要があります。交渉とは尊重すべき取引であり、勝つためだけの戦いではないのです。交渉相手に敬意を示し、よい関係を築くことが重要であって、決して交渉相手を脅したり軽く扱うことがあってはいけません。また、交渉結果を他のコンペチター等に開示することも倫理的にはNGです。

(2)ファムトリップ、ホステッドバイヤー

ファムトリップはプランナーにとって、デスティネーションを知るための格好の機会です。しかし、ここに意思決定とは関係のない家族や友人を伴って参加すること、また、ごほうびがわりに意思決定権のないスタッフを参加させるようなことはできません。
また、商談会でのホステッドバイヤーに関しても、その条件を満たすバイヤーを注意深く選ぶ必要がありますし、またバイヤーは予定された商談をすっぽかしてもいけません。

(3)ギフトのやりとり

好意や歓迎の意を示すためのギフトも、その見返りを期待すると、場合によっては「賄賂」となってしまいます。ギフトを贈ったり受け取る場合には、下記のような点について考えてみましょう。

  • ギフトの目的は?
  • ギフトは個人に対するものか、グループに対するものか
  • ギフトは何らかの対価を期待したものか?その対価は適切か?
  • ギフトの価格は適切か?
  • ギフトはその状況に合ったものか?
  • 贈り手・受け取り手の組織が定めている規定に反していないか?

ギフトに関する考え方は文化によってさまざまで、ビジネスの潤滑油として頻繁にギフトのやりとりをしている国もあります。ギフトを断ることで、恥をかかせられたとか気持ちが傷ついたなどということもありますので、地域の慣習に従うのが望ましいでしょう。
そのギフトが適切かどうかを判断する方法のひとつに“front page of the newspaper”という方法があります。もし、このギフトのやりとりが新聞の一面に出たとしたら、そして自分の名前もそこに載っていたとしたらどうなるだろう、と考えてみてください。ツイッターで拡散されたらどうなるか、というふうに考えてもいいかもしれません。

(4)企画提案書の情報

ミーティング産業にとって、クリエイティビティの重要性はますます高まっています。サプライヤーはさまざまな企画提案を行うわけですが、たとえばA社から出てきた革新的なアイデアをB社に渡して「同じものをもっと安く提供してほしい」と依頼した場合、これは倫理に反します。企画提案書の内容を、第三者にシェアしてはいけません。

(5)スーツケーシング・アウトボーディング

商談会が開催されているとき、出展料金を払わずに会場やその近辺で商談を行う行為のことをsuitcasingといいます。これを見過ごしていると、出展料を支払って参加している他の企業の利益が損なわれることになります。
また似たような概念として、イベント開催中にあえて近隣で類似イベントを開催することをoutboardingといいます。これをやられると本体イベントの参加者が流出してしまいます。IAEEなどではこれを正式に、倫理に反する商行為だと声明を出しています。
こうした倫理に関するリスクを抑えるためには、わかりやすく守りやすいガイドラインを決めることが有効です。倫理規定を決めるためのステップは、下記のとおりです。

ステップ1 まず、組織のビジョン/戦略に沿った「価値」と「倫理」について経営幹部と議論のうえ、承諾を得る。
ステップ2 アドバイザリーグループの設置。組織全体をカバーするような多様な属性を持つメンバーで構成する。
ステップ3 倫理規定の目的と、測定可能なアウトカムの設定。
ステップ4 組織のニーズと価値に合わせた倫理規定を作成する。どのようなリスクが存在するかということも併せて検討する。
ステップ5 倫理規定を社員や労働組合と共有・実効化する。

さらに考えられうるステップとしては、産業界・業界団体の行動規範、法令などを参考にしたり、アカウンタビリティを保つための相互啓発、さらに違反報告制度を設ける、といったものもあります。

おわりに

Thank you for the past 30 months!

これまで30回にわたり続けてきたCMP連載も、とうとう今回で最終回となりました。この連載を始めた動機としては、自分自身が受験勉強の中で、膨大な英語のテキストを読むことのつらさを実感していたので、ミーティング・プランニングに関する知識を体系化することを兼ねて、日本語解説を書いてみようと思い立ったのがきっかけです。多忙なプランナーの皆さんの時間をすこしでも節約できて、また、CMP受験の予定のない人にもCMPに興味を持っていただくきっかけになったとしたら何よりです。
この連載を始めると同時に社会人学生として京都大学経営管理大学院に通い始めて、いまは博士後期課程に進学しています。また、CMP試験問題の作成や、国際標準化にも携わらせていただくようになりました。自分自身の復習を兼ねたつたない文章にも関わらず、これまでお読みいただいた皆様、そして締切ごとに温かく辛抱強く励まして下さった森口編集長に、深く感謝しております。本当に、どうもありがとうございました。

 
  • 押さえておきましょう! CMP用語集(terminology)

    Familialization trip ---------- ファムトリップ

    Suitcasing ---------- 非公式商談を行うこと

    Outboarding ---------- 非公式イベントを行うこと

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