コラム

2022.09.30

【通訳者インタビューFile.1】 フリーランス通訳者のキャリア形成を熟考!「活躍」を持続化する秘訣とは


JCSは、現役の会議通訳者をインタビューし、フリーランス通訳者としてのキャリアや、案件と向き合う際の心構え、今後の目標などを紹介しています。インタビューFile.1は、第一線で活躍されている現役通訳者の佐藤綾子さんです。

ご自身のキャリアや現在のご活躍状況、今後の目標についてお話を伺いました。

インタビューに応えていただいた方

会議通訳者 佐藤 綾子 氏

福島県出身。津田塾大学国際関係学科卒業。自動車部品メーカーの通訳を経験し、JICA研修監理員を3年間務めた後、フリーランス通訳者へ転身。COPや国連総会等の閣僚級国際会議の通訳を務める。現在は自動車、製造業、原子力、環境分野をはじめ、政治経済、経営、IR、文学など幅広い分野で活躍中。

通訳人生の原点、35年のキャリアを振り返る

通訳者になりたいと思ったのは、小学6年生のときでした。当時はカーペンターズやベイシティローラーズといった洋楽が大好きで、よく聴いていました。そんな中、音楽雑誌で海外アーティストにインタビューしていた湯川れい子さんを見たとき、子ども心に「海外の人と話をして記事にするのが、通訳という仕事なんだ!」と思い、憧れを抱きました。小学校の卒業文集にも「私は通訳者になる!」と書いたほどです。これをきっかけに、地元の英語塾や、教会にある英会話教室へ通い始め、英語を習得しました。

初めての通訳の仕事は、大学時代に知人から紹介してもらった自動車工場での通訳でした。日本の自動車メーカーがアメリカに進出していった時代に、約3ヶ月間、毎日みっちりと通訳の仕事をこなし、専門用語を覚えていきました。もともと理系の工業・科学技術に興味があったので、先端技術を目の前で見られるのはすごく楽しかったです。エンジニアになるのは難しくても、英語を使って好きな分野に触れていきたい、技術系の通訳者になりたいと思うようになりました。

来るもの拒まず、経験を積んだ若手時代

自動車工場で通訳を経験した後は、JICA(国際協力機構)の研修監理員として3年間務めました。JICAでは、今の仕事に通じている「環境・エネルギー」分野の研修コースを担当。研修で200を超える工場を訪問した結果、工場の煙突の形を見るだけで、何を作っている工場かわかってしまう特技が身につきました(笑)

当時の仕事内容はとてもタフで、開発途上国の技術者や行政官が参加する研修の逐次通訳を丸一日一人でする生活を約4ヶ月のスパンで繰り返し続けていました。体力・気力を要する仕事量でしたので、若さ故に遂行できたという側面もありますが、その分、得られる経験はとても大きかったです。

その後、フリーランスの通訳者に転身し、「通訳」という言葉のつく仕事は、ありとあらゆるものを引き受けました。まさに、来るもの拒まずという姿勢です。この頃はとにかく経験を積まねばと必死でした。特に、ビジネスコンサルタントの通訳をする長期案件は、これまで実績を積んできた技術・環境分野とは全く異なる内容でしたので、ビジネス分野の対応力を鍛えることができ、仕事の幅が広がりました。

JICA(国際協力機構)
JICA(国際協力機構)
通訳で訪問した工場地帯

JCSとの出会い、現在の活躍状況

JCSには、2006年に「フリーランス通訳者」として登録しました。同時通訳スキルをもっと磨きたいと思い受講した短期通訳コースで講師を務めていた知人に薦められたのがきっかけです。その当時、私は長崎県に住んでいて、九州圏内を中心に仕事を受けていましたが、この知人の後押しがあり、東京での仕事が増えるようになりました。その後、東京進出した際、いくつかの通訳エージェントに登録しました。

JCSで引き受けている案件の特徴

JCSでは、自動車・製造業・原子力・環境など、若手時代に経験を積んでいた分野の案件をはじめ、政治経済・経営・IR・文学など、幅広い分野で声がかかります。

環境分野では、環境大臣が出席する国際会議や、高官の方が出席する会議を対応する機会が多いです。野鳥やサメといった生態系・自然保護に関わる会議などの案件を引き受けることもあります。テーマで言うと、最近は地球温暖化、再生可能エネルギー、スマートシティなどが多い印象です。

特に力を入れている分野は、原子力

私が福島出身であること、そして身内が福島第一原子力発電所で働いていたことから、原子力分野には特別な思い入れがあります。2011年5月末の東日本大震災直後、IAEA(国際原子力機関)の専門家に同行して福島第二原子力発電所へ伺ったのをきっかけに、原子力分野の通訳を始めました。今では関連団体や官公庁、メーカー企業など、通訳案件の幅が広がっています。

福島第一原子力発電所の事故後、いくつかの通訳エージェントから福島へ出向く通訳の仕事を受けたのですが、JCSだけが「危険手当」を支給してくれました。いつ何が起こるか分からない当時の状況下において、大変心強い待遇であったことを今でも覚えています。

また、原子力とは別の技術ですが、元々核融合の技術に興味がありました。高校時代は理系女子でいろいろな科学雑誌を読むほど物理が好きで、バック・トゥ・ザ・フューチャーという映画を見て核融合に興味を持ちました。当時は夢の技術と言われていたのですが、35年たった今では現実の技術となり、核融合の会議に通訳者として入ることもあります。学生時代から興味・関心をもっていたことが今に繋がっているのは嬉しいです。

印象に残っているエピソード

数多くの通訳を対応してきましたが、印象に残っている案件はたくさんあります。中でも、パリ協定が採択されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)の現場は、今でも記憶が色褪せることはありません。196カ国・地域が、史上初めて共に温暖化防止に努めると約束した会議で、大臣付き通訳者として同行しました。歴史が作られる過程を自分の目で見ることができたのは、とても有意義な経験でした。

多くの案件を引き受け、対応できる理由

私が引き受けている通訳案件の数は、月間で25~35件くらいです。これだけの件数を受けることができる理由は、2つあると思っています。

実績とともに積み重ねられる「知識のベース」

長年通訳をしていると、現場経験から得られる知識が着実に溜まっていき、どの業界にも通じる「知識のベース」が出来上がっていきます。これがあると、新しい案件を引き受けるたび、毎回ゼロから勉強する必要はありません。案件ごとに足りない知識を調べたり、案件に関する背景を確認したりするだけで、通訳を遂行できるようになります。つまり、準備に費やす体力・時間を温存することで、本番では効率的に力を発揮できます。

そんな風に思えるようになるまでには、20年近くかかったと思います。これが、1つ目の理由です。

プロのアスリートにも通じる「自己管理」

以前、通訳学校で講師を務めていた時、生徒たちに教えていたことがあります。それは、自分のことを「プロのアスリート」と同様に捉え、自分自身をメンテナンスすることです。通訳は、ことばを知っていれば満足に対応できるというものではありません。睡眠、運動、栄養といった体調面でも、きちんと自分を管理しておく必要があります。通訳は、ベストコンディションで臨んでも消耗が激しい仕事なので、プロを名乗る上で「自己管理」は大切なことです。これが、2つ目の理由です。

JCSを、通訳エージェントとして見た印象

JCSは案件数が豊富で、声をかけていただける機会が多いです。そして、現場のコーディネーションには毎回感謝しています。案件の資料が入手できていない場合は、なんとか手に入るよう働きかけてくれますし、クライアント側の事情で資料が無い場合は、ベストエフォート(最善を尽くす)という条件で了承が得られるよう交渉していただいています。フリーランスという立場では、こういった一つ一つのケアに助けられています。

また、通訳者の困りごとや要望にも耳を傾けてくれます。正直、コーディネーターの対応が良くないと、フリーランスの通訳者は通訳エージェントに登録していても、そのエージェントから仕事を引き受けるモチベーションが下がります。特に繁忙期は、コーディネーションの面で安心できるエージェントから仕事を受けたい、という気持ちがあります。

他社の通訳エージェントと比べると「ケア」に特長がある

JCSは、通訳者にとって、リズムよく仕事に集中できるエージェントだと思っています。私の場合、通訳は毎日やっていることなので、手厚いケアを必要としないケースが多いのですが、JCSのケアは過不足がなく「ちょうどいい」と感じています。バランスが良い、という表現の方がしっくりくるかもしれません。

会議通訳者の佐藤綾子氏が掲げる、今後の目標

通訳の仕事を始めて35年の月日が経過しましたが、生涯現役かなと最近思っています。今後も原子力分野の通訳案件は積極的に引き受けつつ、新たな分野にも果敢にトライしていきたいです。

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