コラム

2024.03.14

【通訳者インタビューFile.3】 フリーランス歴2年の会議通訳者に聞く 社内通訳とフリーランスの違いとは


JCSは、現役の会議通訳者にインタビュー取材をし、フリーランス通訳者としてのキャリアや、案件と向き合う際の心構え、今後の目標などについてお伺いしています。インタビューFile.3は、2021年に社内通訳からフリーランスに転身し、活躍されている会議通訳者の矢島愛美さんです。

ご自身のキャリアや社内通訳とフリーランスの違い、今後の目標についてお話を伺いました。

インタビューに応えていただいた方

会議通訳者 矢島愛美氏

青山学院大学文学部英米文学科卒業。通信機器メーカーやソフトウェア開発会社など、7社で計10年、社内通訳を務めた後、2021年にフリーランスへ転身。現在は社内通訳時代に培ったIT分野の知識を活かし、分野の幅を広げながら会議通訳者として活躍中。

フリーランス2年目、これまでの通訳人生を振り返る

大学で英米文学を専攻したこともあり、自然と英語を使った仕事をしたいと思っていました。通訳者を志したのは、大学卒業後にアメリカへ留学をしたことがきっかけです。「英語ができると知らなかったことを知ることができる。英語を生かして、日本人が言語の壁により得られなかった情報や知識を得るサポートをしたい、日本人が持っている知識を世界に発信するサポートをしたい!」と思い、通訳者になることを決めました。

帰国後は、英文事務の仕事からスタートし、その後、トンネルや空調に関する技術関係の翻訳の仕事をいただきました。普段は触れられないような技術系のプロジェクトに関わることができ、「やはり通訳・翻訳は知らなかったことに出会える仕事だ」と再認識し、本格的に通訳者を目指し始めました。

その後、携帯電話会社の社内通訳・翻訳の仕事を紹介いただき、そこから少しずつ通訳を始めました。当時はまだ通訳訓練を受けていなかったので、プロというにはほど遠いレベルでしたが、その会社に採用されなければ今につながっていないと思うので、とても感謝しています。

社内通訳者時代

通訳者としての第一歩

この携帯電話会社では、日本人エンジニアと外国人エンジニアとの技術会議や開発会議の通訳を担当しましたが、技術用語が多く、最初はエンジニアが何を言っているかさっぱりわからないという状況でした。当時は時間もあったため、エンジニアの目線で通訳ができるように徹底的に説明をしてもらい、毎日遅くまで必死に勉強しました。かなり苦労しましたが、プロジェクトの最後には、「あなたがいてくれたからこそプロジェクトを達成させることできた」と言っていただきました。自分が役に立ったことを実感できて、とてもありがたかったです。この時の経験が今の通訳の基盤になっていると思います。4年間勤務した後に社員登用のお誘いもいただきましたが、いったん区切りをつけ、通訳スクールに通い始めました。

努力が繋いだ縁

その後約10年にわたり、7社で社内通訳を経験しました。登録していた派遣会社には通訳を少しでも続けたいという希望や通訳訓練の経験も伝えていましたが、出産や育児などライフスタイルの変化により、希望条件に合う通訳の仕事がなかなか見つからない時期もありました。それでもここまでやってこられたのは、さまざまな「ご縁」が重なったからだと思います。

最後に社内通訳者として勤務したソフトウェア開発会社は、自分で求人サイトから見つけたもので、もともとは通訳・翻訳を少し含む「プロジェクトマネジメント」のポジションの募集でした。そこに応募をしたところ、私の本来の希望は通訳業務であることを知っていた派遣会社の担当者が別途提案してくれたのが「社内通訳・翻訳者」のポジションでした。しっかり通訳ができる人が欲しいとのことで、希望していた業務内容とマッチしていました。当時は子供も小さかったので、時短勤務可能という条件も決め手となりました。

最初は翻訳の割合が多かったのですが、対応するうちに通訳を気に入っていただけて、1回目の契約更新で通訳メインの業務内容に変わり、チーム付き通訳から部署付き通訳になりました。その後、統括部長付きになり他の企業の役員の方との会議を担当するなど仕事の幅もどんどん広がり、最終的に5年間こちらの会社にお世話になりました。派遣会社の担当の方に見出していただかなければ、通訳に復帰するのはもっと後だったか、もしくは諦めていたかもしれません。だからこそ「ご縁」に支えられてきたのだと感じています。

フリーランス通訳者への転身

フリーランスへ転身したきっかけ

通訳をしている人は、「最終的にはフリーランスになりたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。私もその一人でした。ただ「きっかけ」と「自信」がなく、いつがそのタイミングか、具体的に想像できずにいました。

私がフリーランスへの転身を考え始めたのは、ソフトウェア開発会社での仕事がきっかけでした。多くの会議で通訳経験を積み、大きく前進できたと実感でき、自信がついたからです。

はじめから一つの会社に長く留まり過ぎないようにしようと考えていたので、「次のステップとしてフリーランスを考えている」ということは早めに会社にも話をしていました。最後の1年間は就業日数を週3日に変えていただき、少しずつフリーランスの仕事を始めていきました。そして2021年12月に完全にフリーランスへと転身しました。

社内通訳者とフリーランス通訳者の違い

フリーランスになった当初は、馴染みのあるIT関連の会議やその会社の別の社内会議にリピートで入ることが多かったです。社内通訳時代もフリーランスの方とパートナーを組む機会が多かったため、フリーランスになりたての頃は、社内通訳と大きな違いはあまり感じませんでした。そこからだんだんとIT業界以外の仕事や、IT関連でもより難易度の高い案件を紹介いただけるようになり、少しずつ挑戦しながら仕事の幅を広げることができています。仕事の難易度を上げたり、対応分野の幅を広げたりすることは、社内通訳ではできなかったことだと感じています。

また、社内通訳は収入が安定するメリットはありますが、会議の有無に関わらず時間を拘束されるため、空き時間を自由に活用できないというデメリットがありました。一方で、「子供がいるため残業や出張ができない」とお伝えした上で受け入れてくださっていたので、子供が発熱した時など、相談しやすいことは心強かったです。

仕事の準備という面では、フリーランスになってからの方が新しいものを調べなければいけない量が増えたことで、準備にかける時間は大幅に増えました。そのため、仕事のお話をいただいたときには、まず「経験のあるクライアントか」「馴染みのある分野か」「資料は出るか」など内容から判断し、準備が間に合うか考えますね。ちょっと厳しいな、というときはご相談させていただくようにしています。逆に、期間と他の予定を見て時間が取れるから挑戦できるかな、どうかなと思うものは、お引き受けするようにしています。

準備を含めた一案件に対する全体の拘束時間は、フリーランスの方が長いかもしれません。社内通訳と違って、自分で自由に時間を活用できるというのは、やはり大きな違いだと思います。

通訳エージェント

エージェントを介すメリット

一番大きなメリットは、通訳業界を熟知した方々が、通訳者の経歴やスキルを理解した上で、仕事を紹介してくれる点だと思います。

また、社内通訳者時代は自分でなんとかするしかなかった業務環境を、整えていただけることもありがたいです。「この件はやはり資料がないと私には厳しいです」とか、「時間はどうしても○時で、延長なしで終了していただかないと厳しいです」という要望や、業務終了後に「実は今回こういう感じでした」とお伝えすることもでき、エージェントがクライアントとの間に入ってくれているからこそ言えることがある、と実感しています。

JCSの印象

JCSは、通訳業界大手で敷居が高い印象があり、正直「駆け出しの私には登録はまだ早いかな」と思っていました。ただ、社内通訳として勤務していた会社にJCSからフリーランス通訳者が入っており、コーディネーターの方ともやりとりがあったため、私にとっては馴染みのある会社で思い切って登録応募をしてみました。

実際登録してみるとJCSでは自分が得意とするIT分野だけでなく、あえて別の分野や少し難しいと感じる案件等、適性を見ながら成長に繋がるような案件を紹介してくださり、育てていただけていると感じています。JCSはフリーランスとして二社目の登録ですが、もっと早く登録しても良かったなと思いました(笑)
登録するにはもう少し経験を積む必要があると考えていましたが、思い切って応募をして本当によかったです。

5年後、10年後の目標

ITがすごく好きなので今後もITを基盤にしながら製造など分野の幅を広げていきたいです。今は苦手意識がありますが金融もやってみたいですね。また、将来的にはIT業界の先々を語るようなハイレベルな方々との会議などにも挑戦したいと考えています。ただ、大きな仕事を任せていただけるようになっても、「出来る限り現場の仕事も」と思っています。現場の事も分かった上でハイレベルの会議に入れる、そんなIT業界の通訳者になることが目標です。

また、現在は子育て中なので時間の制約がありますが、二人の子供が中学校に上がるくらいまではもう 1-2 社通訳エージェントに登録をし、母親業もしっかりこなしつつ、フリーランスの基盤を固めていきたいです。5 年後あたりから少しずつ時間の制約をなくし、出張や週末の案件も受けていきたいです。

10 年後には、子供たちも大学生と社会人になるので、軸足をしっかり自分に戻して、制約なく完全にフリーランスとしてやっていけると思います。それまでに基盤を固めて自信が持てるように、頑張っていきたいと思います。友人から「『通訳者は 10年やって生き残っていれば自分に需要があると判断していい」と先輩や講師の方などに言われた』と聞きました。ですので、まずは10年生き残れるかどうかやってみようと思います。そして、またそこから上を目指す。その頃には、フリーランスという働き方を子供たちにポジティブに見てもらえるように活躍できていたらいいなと考えています。

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