コラム

2024.02.21

【MICE都市研究所 IAPCOアンバサダーレポートNo.2】多様性~国際会議誘致決定要件のトレンド


国際会議開催地決定にあたっては、主催者である国際本部の提案依頼書(Request for proposal 、以下RFP)に基づき、適切な開催地が選択されます。
2020年1月末、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を発したことで、会議産業は大きな変化を迎え、開催地決定にあたり求められる要件に顕著な変化がみられるようになりました。

一番大きな変化はデジタル化です。コロナ禍で人と人との接触が限られる中、オンライン形式での開催が急激に増加しました。結果として現在、現地開催とオンライン開催を併用したハイブリッド形式が開催形式の主流になり、参加方式が多様化したことで、参加者が増加するという状況をもたらしています。
このほか、環境に対する意識の高まりも新たな変化の一つです。会議開催にあたっては人の国際的な往来を伴うことから、環境負荷も少なくありません。コロナ禍のオンライン形式を経て、特に欧州の国際本部の環境に対する意識が高まり、開催地にGreen Meeting(環境に配慮した会議)を求める傾向が強まっており、それがRFPに盛り込まれる頻度も高くなってきました。
そして、これら二つに加えて求められる要件に「多様性」があります。本稿では「多様性」についての事例をご紹介します。

以下はある国際本部が発出したRFPに含まれる要件の一部です。

●プログラム編成にあたり、講演者や座長・モデレータは男女の比率に配慮すること
●プログラムを編成する委員の男女の比率に配慮すること

これとは別の国際本部のウェブサイトには、開催地の条件として、「人権、例えば、女性、労働者、先住民、LGBTIQ+の人々の権利などが守られていることが必須」と掲げられています。
RFPは国際本部が開催地を公募する時期に公開されることが多いのですが、上記のようにウェブサイトに定常的に掲載されているということからも、国際本部の強い理念をうかがい知ることができます。

このように人権やジェンダーにフォーカスされた国際本部の国際会議開催に求めるルールは、実際に開催が決まると、以下のような細かい項目まで求められることがあります。

●女性、妊婦、何らかの介助・支援が必要な方に適切な配慮を行うこと
●参加者に分け隔てなく、質問・発言の機会を与えること
●食事制限に柔軟に対応すること
●ジェンダーニュートラルな代名詞を使用すること etc.

筆者がRFPに基づいて誘致提案書(Bid Paper)の作成を委託される際には、「多様性」に関する表現や記載には細心の注意を払います。表現をひとつ間違えれば書類選考で落とされることもあるからです。また文字だけではなく、提案する組織委員の人選やプログラムについても、名前があがった方はできるだけ顔写真を載せるなど工夫を凝らします。というのも日本人の名前は、名前だけ見てもジェンダーの区別がつかないからです。

先日ある国際会議の運営現場でスタッフへオリエンテーションを行っている際に、国際本部のマネージャーから「ジェンダーバランスが悪い」と指摘されたことがありました。日本では職種によって「受付・接遇は女性の仕事」「オペレーターは男性の仕事」という固定観念があり、実際に手配可能なスタッフの構成にそのような偏りがあるのも事実です。

国際会議の誘致・開催には、国際本部やローカルホスト、開催都市、運営事業者など様々な関係者が介在します。既存の考え方にとらわれず、時代に求められる国際会議のあり方を関係者一同でつくりあげていくことが、今後の国際会議の誘致力の向上につながり、開催都市、開催国の価値向上に結びついていきます。

IAPCO*アンバサダー 池田ゆかり(MICE都市研究所シニアコンサルタント)
*IAPCO:国際PCO協会(International Association of Professional Congress Organizers)。世界の会議運営専門会社(PCO)約140社で構成される国際団体。本社はスイス・チューリッヒ。

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