コラム

2024.09.30

オープンファクトリーとは?増加の背景や開催意義を解説


近年、ものづくり企業が工場や⽣産現場を一般公開する「オープンファクトリー」の取り組みが、全国各地で増えています。
本稿では、オープンファクトリー開催増加の背景や開催メリットなど、事例を交えてわかりやすく解説します。

オープンファクトリーとは

ものづくりに関わる中小企業や町工場が工場を公開し、地域内外からの来訪者に対して体験イベントや見学ツアーなどを行うことを、オープンファクトリーと言います。

地域⼀体型オープンファクトリー

昨今は近畿地方など、工業集積が著しい地域で企業が一体となってオープンファクトリーを開催する、地域⼀体型オープンファクトリーの開催が増えています。

  • ※地域一体型オープンファクトリー:ものづくりに関わる中小企業や工芸品産地など、一定の産業集積がみられる地域を中心に、企業単独ではなく、地域内の企業等が面として集まり、生産現場を外部に公開したり、来場者にものづくりを体験してもらう取組

    引用元:地域一体型オープンファクトリー(近畿経済産業局)

オープンファクトリー開催増加の背景

オープンファクトリーが開催される背景は多岐にわたりますが、ここでは以下3つのポイントに絞り、それぞれ解説します。

  • ものづくり産業を取り巻く環境変化、後継者不足
  • 住工共生
  • 2025年開催の大阪・関西万博

ものづくり産業を取り巻く環境変化、後継者不足

日本は創業100年を超える企業が世界で最も多い国ですが、製造産業は衰退傾向にあると言われています。少子高齢化による労働者数の減少等により、ものづくりを始めとした企業の人材獲得はさらに困難になり、「人材不足」や「技術継承」の課題は深刻化しています。

住工共生

地域住民の「住宅」と「工場」が共在する地域においては、騒音、振動、大気汚染、道路の交通渋滞など多くの課題があります。そのため、住民と工場との間で、トラブルが発生する場合もあります。

地域住民との交流を通してものづくり企業の理解を深めることができ、「魅力」や「価値」をアピールすることができるオープンファクトリーは、これらの課題に対して解決が期待できる取り組みとして、注目されています。

2025年開催の大阪・関西万博

大阪・関西万博も、オープンファクトリー開催の後押しになっています。
万博会場に、地域の中小企業を始めとしたものづくり企業が出展する機会づくりや、万博を訪れる国内外の方に地域のものづくりを知ってもらう取り組みなどが進んでいます。
インバウンド(訪日外国旅行者)の地方誘客については「インバウンド観光」でも解説しています。

オープンファクトリー開催の目的やメリット

オープンファクトリーを開催する目的やメリットは様々あります。中でも「地域⼀体型オープンファクトリー」は、地域活性化につながる「まちづくり・地域づくり」のメリットが大きいと言えます。

  • 地域ブランディング、地域プロモーションにつながる
  • 地域全体の結びつきを強め、新しいコミュニティーができる
  • シビックプライド(地域への誇りと愛着)が醸成される

参加者と企業のメリットは、それぞれ以下の通りです。

参加者のメリット 企業のメリット
・非日常体験ができる
・ものづくり体験を通して学びが得られる
・参加者同士の交流が深められる
・自社を知ってもらうきっかけになる
・営業活動や共同開発の機会創出
・採用、技術継承につながる
・社員の教育モチベーションの向上

その他「産業」「観光」「教育」の面においてもオープンファクトリーの意義が見いだせるので、それぞれ詳しく説明します。

産業面でのオープンファクトリーの効果

営業活動や共同開発の機会創出

「BtoB(企業間取引)」の仕事が中心であるものづくり企業にとっては、オープンファクトリーは消費者を対象にした「BtoC」マーケティングや営業機会となります。一般参加者とのコミュニケーションによって、販売機会の増加だけでなく、商品改良や開発のヒントが得られる可能性もあります。そのためオープンファクトリーは、事業再構築や業態転換、マーケティング要素のある活動とも言えます。

採用や技術継承につながる

オープンファクトリーの来訪者が、事業や製品に興味を持ち、採用につながることがあります。
求職者にとっては、仕事現場を実際に見られる「会社見学」の機会となります。社員と直接話すことで、仕事内容や職場の雰囲気が分かり、業界や企業の理解を深められます。親子でオープンファクトリーに参加できるため、家族が職場への理解を深めるメリットもあります。
また人材が採用されることで、後継者育成や技術継承の課題解決にもつながると言えるでしょう。

イノベーション

ものづくり企業同志、あるいは異業種間企業が連携することによって、互いに刺激を受け、新商品の開発や事業展開のモチベーション向上につながるケースがあります。また世代や業種を超えたネットワークが構築できるため、若手クリエイターと商品を共同開発するなど、他社とのコラボレーションやイノベーションの機会創出にもつながります。

観光面でのオープンファクトリーの効果

地域振興

地域⼀体型オープンファクトリーの場合、ものづくり企業の魅力だけでなく地域の魅力も伝えることができるため、「地域の認知度の向上」が見込めます。また地域外からの訪問者が一時的に増えるだけでなく、来訪者に地域のファンになってもらうことで安定的なリピート訪問につながり、交流人口の増加や、観光消費額の向上が見込めます。

インバウンド観光

オープンファクトリーは、国内在住者のみならず、訪日外国旅行者も対象になります。伝統工芸など、地域特有の文化や伝統技術体験ができるツアーやアクティビティは、モノ消費からコト消費の流れを受け、インバウンド市場でも注目が高くなっていると言われています。

「2025年開催の大阪・関西万博」でも述べた通り、大阪・関西万博に来場するインバウンドの地方誘客を図る動きもあります。大阪・関西万博は、インバウンド観光だけでなく、ビジネス・トリップ(テクニカル・ビジット)面での効果にも期待が高まっています。

観光庁の「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」に、地域一体型オープンファクトリーの取り組みが記載されていることから、今後インバウンドへの取り組みが拡大することが予想されます。

教育面でのオープンファクトリーの効果

社員の教育・モチベーションの向上

ものづくり企業で働く社員にとって、オープンファクトリーは、一般の方に自分の職場を見せる・伝える機会となります。一般公開がきっかけで、生産性やモチベーションの向上につながる5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)活動が活発化したり、製品の不良率改善や商品開発の意欲向上につながることがあります。
また、来訪者に会社の成り立ちや仕事内容を説明するため、会社のことを深く学ぶ機会にもなります。自社紹介の活動を通して、コミュニケーション能力やプレゼンテーションスキルの向上も見込めます。

子どもの学びの機会

社会科見学・工場見学として、オープンファクトリーを活用できます。参加者は、普段見ることのできないものづくりの過程や工程を楽しく学べる、貴重な体験ができます。ものづくりを五感で体感でき、知的好奇心を育めるため、子どもの成長につながる取り組みとも言えます。

開催地域の教育機関参画や連携

大学などの教育機関によるオープンファクトリーへの参画が増えています。運営や実行委員のメンバーとして企画や運営、集客などを行い、実践的に現場を学ぶ例も増えています。

このように、オープンファクトリーには地域振興や観光産業など様々な側面でメリットがあります。ものづくり企業だけの取り組みに留まらず、自治体や教育機関が関わる「産学官」連携となるケースが多くあります。

オープンファクトリーの開催形式

オープンファクトリーには、主に2つの開催形式があります。

フリー見学型 ツアー訪問型
・来場者が自由に出入りできる形式 ・予め組まれたコースを団体で回る形式

「フリー見学型」と「ツアー訪問型」の両方を組み合わせた開催形式もあります。産業集積の範囲が広く、徒歩での移動が難しい場合や、守秘義務がある製品や工程があっても部分的には一般公開できる場合などは、ツアー訪問型が適しています。ツアーの中に、ガイドによるものづくり産地の歴史紹介、飲食店と連携した食文化の体験など、地域の特性に合わせた地域振興につながる企画が組み込まれるケースも増えています。

オープンファクトリーの開催事例

八王子オープンファクトリー

八王子市は桑都(そうと)と呼ばれ、古くから織物を地場産業とする産業都市として栄えてきました。八王子市内にある伝統工芸や製造業などの工房・工場を、現地で見学・体験できるイベントを、八王子市と日本コンベンションサービス株式会社が共催しています。

その他オープンファクトリーに関連する全国のイベントが、近畿経済産業局のウェブサイトで紹介されています。

終わりに

オープンファクトリーは、来訪者が開催地域の産業や企業を知り、体験を通して「ものづくりの面白さ」や「職人の心意気」を感じることができる点が、一番の魅力です。しかしオープンファクトリーのもたらす効果は、これだけに留まりません。参加する企業間の交流・連携、来訪者との会話から生まれる商品開発等の気づき、地域の大学他研究機関との協働、その学生らによる運営サポートや地元就労のきっかけ作り、技術継承問題への対応など多岐に渡ります。
それらを一企業が単体で行うのではなく、地域が面として取り組むことで「まちづくり・地域づくり」につながっていきます。その意味でオープンファクトリーは、地域の魅力を発信していくコンテンツの一つである、と言えます。このコンテンツを磨き上げ、食や文化、既存の観光地などとつなぎ合わせて発信することで、インバウンドを含めた地域外からの来訪者獲得につながっていきます。
今後も各地域がエリアの特性を活かし、新しい形のオープンファクトリーが活発に開催されていくことが予測されます。

日本コンベンションサービス(JCS)は、国際会議運営、自治体等と協働する中小企業の支援事業、まちづくり支援事業で培った実績を活用し、今後とも地域の方々と共に地域活性化に向けた取り組みを展開してまいります。

記事監修

日本コンベンションサービス株式会社
ニューノーマル推進事業部
事業開発部 部長
藤 泰隆

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