コラム

2018.04.11

TIリテラシーのコラム第5弾「Kyoto’s Unique Approach to the Meetings Industry」


「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」にスポットを当てたコラム企画の第5弾です。
Lonely Planetの“Japan”で、京都は下記のように紹介されています。

  • Kyoto is not just about sightseeing: while the rest of Japan has adopted modernity with abandon, the old ways are still clinging on here.

これは京都を訪れた人達の多くが感じる事なのだと思います。日本の中でも、京都はやはり何か特別な存在であると思います。それは、京都が守り続けている伝統と、一方で進化する技術との融合により、一言では表わせない深みを持つからなのかもしれません。そんな京都について、今回はあえて海外の方のご意見をうかがってみたいと思いました。

MICEデスティネーションとしての日本を考えた時に、日本人が考える日本と、海外の方々が考える日本には、良くも悪くも「ズレ」があると思います。ことばは違いますが、この事は、デービッド・アトキンソン氏の著書『新・観光立国論【実践編】世界一訪れたい日本のつくりかた』の中でも述べられています。アトキンソン氏がJNTOの特別顧問である事からも、海外をターゲットとしてマーケティングを行う中で、この点が重要だと考える関係各位は、決して少なくないでしょう。

また、TIリテラシー教育の1つに、「異文化コミュニケーションの仲介行為としての翻訳通訳という視点から、歴史上また現代社会における翻訳通訳の役割について理解する」というものがあります。国際会議誘致においても、異文化コミュニケーションの仲介行為を応用する事ができるのではないかと思います。そこで、我が国のビッド・ストラテジーを探るべく、京都文化交流コンベンションビューローのマシュー・スティブンスさんにインタビューを行いました。

マシュー・スティブンス氏
2015年より京都文化交流コンベンション ビューロー MICE課にて勤務。
前職は和歌山市役所国際交流課にて 4年間勤務。

What is the Difference in Points of View?

スティブンスさんは、アメリカのユタ州出身、現在来日7年目、京都をこよなく愛する方です。そんなスティブンスさんへの1つ目の質問は、「MICE Destinationとしての日本に対し、日本人と海外の人達の視点に違いがあると思いますか?」というものです。

スティブンス氏の回答:
「違いはあると思います。日本人は(海外にとっての魅力は)神社仏閣や舞妓さんだと思っている方が多いのですが、実際は学会に携わる日本人の先生方の人柄であったり、日本で行われている研究に興味があるという事、さらに、治安の良さも大きなポイントになると思います。」


確かに、MICEデスティネーションとして、上記は大切なポイントです。しかし、それだけではストラテジーとしては弱いという事も添えられました。「医学会で言えば、医師だけでなく、市民や患者も含めてみんながコミットできる会議を開催していく事がこれからは大事だと思います。医学会が、いかに社会貢献できるのかを考える。その架け橋をビューローが担っていきたいと思っています。」

例えば、高齢化社会として日本が抱えている問題に対して、医学会を通して人々とつながる事の提案、そんな先例を世界に発信していく事、それが私達の業界のCSRなのだと感じさせられました。

また、このCSRこそが、日本で国際会議を開催する意義なのだと思います。世界でも有数の高齢化社会という、一見ネガティブな状況を逆手にとって、そんな日本だからこそ真剣に取り組む必要があるんだとアピールする事で、新たな日本の魅力を伝えられるかもしれません。確かに、日本で舞妓さんを見てみたいと思って日本に投票する人もいらっしゃるでしょう。しかし、本当に人の心を大きく動かすのは、「意義がある事」すなわち国際会議を開催する背景なのだと思います。

What is Kyoto’s Strategy?

2つ目の質問は「京都にMICEを誘致するために意識されている事を教えてください。」です。

スティブンス氏の回答:
「京都の特徴を理解しつつ、京都と世界を繋ぐ事が我々の使命だと思っています。MICEは人と人とのつながりです。京都は、観光をするためだけの都市ではありません。守るべき文化、歴史、産業がある事をMICE開催を通じてより多くの人達に知ってもらう。京都の文化を守る意義を多くの人達と分かち合う。さらにそれらの取組を通じてMICEに対する府民や市民の理解を深めることが重要だと思います。」


現在では、テクノロジーの発展によりオンラインで人とつながる事が容易となりました。それでも、「国際会議」という場で、実際に人と人とが会って話をする事に、意味があるのだと思います。特に、意見が割れるような議題では、コーヒーブレイクのちょっとした会話が交渉のきっかけにもなり得ます。そのような場の提供をする事が、裏方としての我々の役目なのだと思います。

また、京都文化交流コンベンションビューローでは、京都伝統産業ふれあい館と連携して、京都の伝統産業をMICEプロダクツに取り入れるという事にも取り組まれています。例えば、学会に参加すると提供されるコングレスバッグも、京都で作ると「地元京都産のちりめん地をあしらった和柄のバッグ」になるんですね。京都の文化がMICEの形として現れる。それは、京都の文化、歴史、産業の保護につながります。それが、府民や市民の理解にもつながります。それこそが、京都独自の誘致方法であり、強みなのだと感じました。

写真提供:京都文化交流コンベンションビューロー
写真提供:京都文化交流コンベンションビューロー

What are Japan’s Challenges?

3つ目の質問は「シンガポールやソウルと比較して、日本がMICE誘致にあたり必要なものとは何でしょうか。」です。

スティブンス氏の回答:
「日本にとって大事なことは、主催者の方々が日本での開催にあたり求めている、日本古来から続く文化やそれにともなう考え方を持続させながら、国際的なビジネス商談における考え方や進め方を取り入れていき、日本という国を理解いただいた上で同じ方向で仕事が進められる環境を作っていくことだと思います。」


私の夫はアメリカ人なのですが、夫と外で食事をする時に、和食のお店に入ると、「お箸で大丈夫ですか?」と聞かれる事があります。お店の方は親切心で聞いてくださっているのですが、夫はそれを嫌がります。特に、私と夫以外にもその場に他の知り合いが同席している場合は、自分だけ「特別」扱いされる事に気分を害するのだと思います。

アメリカで中華の出前はかなりポピュラーです。そういう事もあって、お箸を使う人達も少なくないというのが私の印象です。「海外からのお客様はお箸が使えない」という前提でサービスを提供するよりは、本物の日本に触れていただくというサービスの方が、ウケが良いのかもしれません。逆に、お寿司屋さんで10貫セットのお寿司を食べる時に、「貝は食べられないので、何か他のものに変えていただけますか?」と尋ねると、「セットの内容の変更はご遠慮いただいておりま す。」と言われる事があります。おそらくお店のマニュアルがそうなっているのかなと推測しますが、海外の人達にはアレルギーに限らず宗教上の理由等で食事制限のある人達もいらっしゃいます。これについては、特に柔軟に対応しなければいけないと思います。

これらの事例もそうですが、日本のサービスには実は柔軟さが欠けているのかなと思う事があります。今後開催される数々の国際的なスポーツ大会では、世界中からいろんな人達が来日されます。その人達に「また日本に来たいな」と思っていただくためには、今から少しずつ意識や理解を変えていく必要があるのではないでしょうか。

Connecting People

最後に、MICEデスティネーションとしての京都を考えた時に、大切な事は何かを考えてみました。私なりの答えは、あらゆる温度差を縮める事だと思います。

例えば、行政と市民のMICEに対する温度差です。これを縮めるためには、MICEが市民にとって遠い存在ではないというアプローチが今よりもさらに必要なのだと思います。そのためには、MICEの経済効果以外の効果がキーワードになると考えます。地元の人達の協力を仰ぎ、MICEを一緒に開催するという思いを抱いていただけるような、MICE運営を目指すPCOでありたいと思います。

Next

次回は、World Englishesについて考えてみたいと思います。国際会議に参加する人達が増加するにつれ、また日本が観光立国を目指すにつれ、World Englishesが重要になってくると思います。

References

デービッド・アトキンソン(2017) 『新・観光立国論【実践編】 
世界一訪れたい日本のつくりかた』東洋経済新報社
Kai Chan (2016) These are the most powerful languages in the world World Economic Forum
東川静香(2017) 『国際会議運営業界におけるTIリテラシー教育』修士論文 関西大学

東川 静香

日本コンベンションサービス株式会社
MICE都市研究所 研究員
2008年より、同社にて国際会議運営における海外担当に従事。2017年、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員

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