2018.08.29
TIリテラシーのコラム第9弾「Apps: Revolutionizing the Meetings Industry」
「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」にスポットを当てたコラム企画の第9弾です。
国際会議開催時のペーパーレス化やスマートフォンの普及率に伴い、近年MICE開催時におけるアプリの利用率も高まっています。そこで、海外と日本のアプリを比較してみると、明らかな違いがあります。そもそもアプリは、Google社のAndroidもしくはApple社のiOSの基準を満たす必要があります。そこで、各社のPhilosophyを調べてみたところ、複数挙げられている中でトップに記載されていたものが下記になります。
Typical Event Apps in Japan
日本国内で開催される国際医学会等で使用されているアプリには、主に下記のようなメニューがあります。言い換えれば、これはおおよそプログラム・抄録集がペーパーレス化され、アプリとなったものです。確かに検索やマイスケジュールによってカスタマイゼーションは可能となりましたが、これでは単なるツールとしての域内に留まっているという印象を受けます。
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- 開催中セッション
- 演者
- 日程表
- プログラム
- フロアマップ
- マイリスト
- お知らせ
- マイスケジュール
- 各種ご案内
- エリアガイド
- 検索
Trends of Event Apps Outside Japan
一方、海外のアプリでは上記のスタンダード・メニューに加え、下記のような機能を目にします。
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Messaging:参加者間でのメッセージ機能
Electronic Business Card Exchange:QRコード等を利用した名刺交換機能
Live Polling & Q&A:セッション内での投票や、Q&Aを行う機能
Meeting Requests:ブレイン・ストーミングやグループ・ディスカッション等を行う機能
これらは、参加者に対し、アプリを通じてより一層コミットできる機会を提供しています。このような相互作用が、参加者同士の新しいネットワーク構築につながります。また、セッション前に行っている事前打ち合わせ等も、アプリで行うことにより、会場費や飲食費の削減にもつながります。
なお、海外のMICEの多くでは、Registrationもスマートに行われています。コードを使用したものもあれば、顔認証を用いたものもあります。
SpotMe; An Event App Leader
以下の表1はイベント・アプリのトップ12社のランキングです。今回は、3位にランクインし、スイス、アメリカ、シンガポールに拠点を置くSpotMe社のCEOであるPierre Metrailler氏にお話をうかがいました。SpotMe社は、MICE関連のアプリ開発等も手掛ける会社で、現在スイス、アメリカ、シンガポールに拠点を置いています。
※表は、G2 crowd「註」のレポートを参照し、筆者が作成
※「註」は、シカゴに本社を置くPeer to Peerのビジネス・ソリューション・レビュー・プラットフォーム
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表1: The Top 12 Mobile Event Apps
- 1. Attendify
- 2. CrowdCompass
- 3. SpotMe
- 4. Gather Digital
- 5. Yapp
- 6. Meeting Application
- 7. eventmobi
- 8. Core-apps
- 9. Eventfuel.io
- 10. Guidebook
- 11. DoubleDutch
- 12. etouches
インタビュー内容抜粋
質疑応答は英語にて行いましたが、質問は日本語で記載、Metrailler氏の回答はより生の声をお伝えするため英語とし、筆者コメントを日本語で記載しました。
質問:エンド・ユーザ(参加者)目線でのアプリ開発をされているとのことですが、具体的にはどういうことでしょう?
回答:Grasp the audience’s attention with highly configurable modules which keeps users engaged. Modules
like personalized agendas/content, live polling word cloud, AR Scanner, AR Challenge, and many more.
コメント:MICEの主催者・運営側からすると、参加者数は参加費収入と比例し、MICE開催の成否に関わる問題です。そのため、参加者を惹きつけるアプリを提供すること、そして彼らがよりコミットできる場を提供することが、MICE開催の成否にもつながります。
また、近年注目されているAR(Augmented Realityの略。日本語では「拡張現実」と訳されます。)を取り入れることで、アプリ機能のあらゆる可能性が広がります。
質問:MICEに参加する人達の目的の一つに、新たなネットワーク構築があると思います。御社ではそれをどのようにサポートされていますか?
回答:Align leadership, talent and human capital and create a sense of community with collaborative modules that go beyond a simple in-app message. Modules like brainstorming,commitments, group discussions, evaluations, task management and performance tracking.
コメント:単なるアプリ内メッセージという域を越え、新たなコミュニティを形成することが、より濃密な議論につながり、その場を提供することが、この業界におけるCSRであると感じました。ブレイン・ストーミングやグループ・ディスカッション等、人と人とをつなぐきっかけを提供することで、新たなコミュニケーションが連鎖的に生じる無限の可能性を感じました。
質問:御社のアプリは、エンド・ユーザ(参加者)、クライアント、アプリ提供をする側のWin Win Winの状況を考えたものであるとうかがいました。具体的にはどういうことでしょう?
回答:Grow a company’s sales enablement with competitive skill setting modules that increases networking, improves product knowledge, tracks performance, and highlights thought leadership.
コメント:これらは、アプリを単なるツールとして捉えるのではなく、アプリを活用したデータ分析を可能とします。我々がアプリを提供する意味は、最終的にはそのデータを分析することで、新たなマーケティングへとつなげることだと思います。
質問:御社のアプリでどのようなデータ分析が可能となりますか?
回答:Provide real-time business intelligence with our analytics tool suite. Our analytics data helps companies make actionable changes to improve their overall event success.
Our metrics measure content effectiveness, participant engagement, and navigation behaviors that helps clients understanding how participants consume and interact within the app.
コメント:ユーザがアプリ内で何を選択し、何を使用しているのかをリアルタイムで分析することで、ユーザが求めるものが見え、今後の改善ポイントが見えてくるのだと感じました。
この連載でTI(翻訳通訳)リテラシーについて書く際、グローバリゼーションやローカリゼーションを取り上げてきました。グローバリゼーションに対応するため、ローカリゼーションというプロセスが必要になります。アプリというツールも、その延長線上にあるものです。
そのアプリのユーザ分析を行うことは、ローカリゼーションの次のプロセスである、パーソナライゼーションとなります。個々人のユーザの要求をどれだけ汲み取ることができるか、また複数のパーソナライゼーションの共通項を導き出すことが、ユーザ目線に立つということになります。
PCOにおいても、従来のMICE運営だけではユーザやクライアントの満足は得られず、今後求められるのは+αの部分です。+αとはすなはち、各MICEを主催するクライアントや、参加者単位までパーソナライゼーションし、そこから導き出される、ユーザ目線のツールを提供することだと思います。
実際、ユーザ目線をPhilosophyとして掲げ、優れたツールを提供している企業は、世界のトップ企業として名を連ねています。個々人の背景を汲み取る人材が必要とされ、その人材の集合体として企業が存在する時、初めてその企業は国際競争力を持つのではないでしょうか。
Next
次回は、海外のMICEのトレンドを紹介します。日本国内のMICE開催との比較を行う事で、日本の方向性が見えてくると思います。
References
Patrick Hull (2012, December 19). Be Visionary.Think Big. Forbs. Retrieved from https://www.forbes.com/sites/patrickhull/2012/12/19/be-visionary-thinkbig/#7f8db2bc3c17
Ten things we know to be true – Google( 2018) Retrieved July 17, 2018 from https://www.google.com/about/philosophy.html
The Top 12 Mobile Event Apps( 2018) . Retrieved July 17,2018 from https://www.g2crowd.com/categories/mobileevent-apps#highest_rated
東川静香(2017)『 国際会議運営業界におけるTIリテラシー教育』修士論文 関西大学
東川 静香
日本コンベンションサービス株式会社
MICE都市研究所 研究員
2008年より、同社にて国際会議運営における海外担当に従事。2017年、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員