2018.09.02
TIリテラシーのコラム第10弾「Trends in the Meetings Industry - The Coming Wave from China」
「TI(翻訳通訳)リテラシーから探る真の国際競争力」にスポットを当てたコラム企画の第10弾です。
海外のMeetings Industryでは、コアPCO等を中心にデータ分析が活発に行われており、業界のトレンドも各社によってまとめられています。CWT Meetings & Eventsによる“2018 Meetings & Events Future Trends”では、“Trends & Tips”として、下記の5項目が挙げられていました。
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- Focus on‘ Why’
- Budget
- Attendee experience
- Technology
- Safety and security
今回は、その中でも4番目のテクノロジーに注目してみました。なぜなら、テクノロジーはMeetings Industryだけではなく、世界市場全体においてのキーワードとなっているからです。Meetings IndustryにITやAIが密接に関わることにより、今までこの業界に参入していなかった企業が出現することも予測されます。そうなった時、私達は果たして準備万端と言えるのか、これを機に考えてみたいと思います。
Why is the US Strong?
International Congress and Convention Association(ICCA)の国別国際会議開催数のランキングにおいて、2位以下は例年順位が流動的となっています。しかし、アメリカは1位をキープしています。その理由の1つとして、大企業が大々的に行うイベントが挙げられます。
例えば、Apple 社が開催するWorldwide Developers Conference(WWDC:世界開発者会議)は、例年カリフォルニアで開催されています。1枚1500ドル以上の入場券が、5000席分すぐ売れてしまうほどの人気です。また、Google社が同じくカリフォルニアで開催するGoogleI/O(input/output)も、1000ドル以上の参加費を支払わなければなりませんが、WWDCと同様に入場券の入手が困難なほど、人気となっています。これらのイベントでは、新製品等が発表されることに人々が魅力を感じているというだけではなく、Apple社やGoogle社が持つブランド力の強さもうかがえます。
2018年の世界の時価総額ランキングでは、Apple社が1位、Google社の親会社であるAlphabet社が3位となっています。
表1をご覧いただくと、世界市場で上位10社のうち8社がアメリカの企業、2社が中国の企業となっています。なお、この上位10社のうち7社がIT関連となっています。
表1 時価総額の世界ランキング(2018年第2四半期)
- アップル アメリカ
- アマゾン・ドット・コム アメリカ
- アルファベット アメリカ
- マイクロソフト アメリカ
- フェイスブック アメリカ
- アリババ・グループ 中国
- バークシャー・ハサウェイ アメリカ
- テンセント・ホールディング 中国
- JPモルガン・チェース アメリカ
- エクソン・モービル アメリカ
表2 時価総額の世界ランキング(2008年第2四半期)
- エクソン・モービル アメリカ
- ペトロ・チャイナ 中国
- ICBC 中国
- マイクロソフト アメリカ
- チャイナ・モバイル 香港
- ウォルマート アメリカ
- 中国建設銀行 中国
- ペトロブラス ブラジル
- ジョンソン&ジョンソン アメリカ
- ロイヤル・ダッチ・シェル 英国・オランダ
一方、表2は10年前(2008年)の世界の時価総額ランキングです。この時には、IT関連ではマイクロソフト社のみがランクインしていました。また、10社のうち4社が石油関連でした。この10年で、世界市場が大きく変化したと言えるでしょう。ちなみに、日本企業が世界の時価総額ランキングで10位以内にランクインしたのは、11年前のトヨタが最後となっています。これらのデータから、現在の世界市場ではIT関連会社が大きな力を持っていること、また日本のIT業界が世界市場では弱いことが垣間見られます。
※表1・2は、Financial Times Global 500を参照し筆者が作成
China is Next
さて、先程の表1のランキングで6位のアリババ・グループは、11月11日のAlibaba’s Singles’ Dayにおいて、例年莫大な売り上げを出しています。Forbesの記事では、アマゾンのPrime Dayと比較して、アマゾンが24億ドルに対し、アリババが253億ドルと試算しています。さらには、Alibaba’s Singles’ DayのCountdown Galaイベントを開催し、著名人を呼び、ショッピングをエンターテイメントと捉え、大きな成功を収めています。
また、表1のランキングで8位のテンセント社は、WeChatアプリ等でおなじみの中国企業です。このテンセント社も旅行業界の見本市であるITB China 2018に出展しました。2017年にシンガポールで開催されたITB Asiaにおいては、グーグルやIBMが「AIと旅行産業」についての基調講演を行う等、Meetings IndustryとITが今後より一層連携していくことがうかがえます。
The Wave from China
Meetings Industryに限らず、日本のインバウンド政策で問題となっていることの1つとして、日本の現金社会が挙げられます。これは、現金社会に慣れ親しんでいない訪日外国人にとっては、厄介な問題です。私が住んでいる大阪市のなんば周辺は、外国人観光客が集中していることもあり、商店街、デパート、ショッピングモール等、至る所でAlipay(アリペイ)のシールを見かけます。
アリペイとは、アリババ・グループのモバイル決済サービスです。このシールを見る度に、アリババ・グループの脅威を感じるのですが、これもITを活用したグローバリゼーションの1つの結果だと言えます。
また、多くの報道で問題視されている民泊や白タク等、訪日外国人関連の対策事項は後を絶ちません。これらは違法である以上、もちろん正当化することはできません。ただし、訪日外国人を増やすという日本の国策の中で生じている、訪日外国人からのニーズに対して、果たして日本はどれだけ応えようとしているのでしょうか。本来はそこにビジネス・チャンスがあるはずなのですが、その日本におけるビジネス・チャンスを中国企業が先に掴んでいるという印象を受けます。
グローバリゼーションの結果、今後もこのようなことは続くと予想されます。しかし、それに対する日本の対応が、全くグローバライズドされていないと感じるのです。日本人にとっては「違法」ということばが魔法のように全てを解決してくれるように捉えられがちですが、世界には「だから何?」と思う人達も少なからず存在するのです。そのような現実と向き合わなければならない時が、まさに今なのだと思います。
World is Moving
8月17日の日本経済新聞では、中国共産党によるゲーム業界の突然の統制により、中国のテンセント社が打撃を受けていることが報じられています。これは、決してテンセント社だけの問題ではなく、中国市場に期待していた日本の大手企業も打撃を受けています。
ここから学ぶべきことは、ゲーム業界だから関係ないということではなく、我々の業界にもいつどのような波が押し寄せるかわからないということです。その波を予測する能力も必要ですが、予測不可の事態も起こり得ます。大切なのは、世界は常に動いていて、日本はその世界の一部であるという認識を、今一度持つことなのだと思います。それがリテラシーを持つということではないでしょうか。
Next
次回は、人工知能(AI)の時代に突入した機械翻訳についてです。「機械翻訳があれば翻訳者は不要になる」と言う人がいれば、「やはり翻訳は人間がやるべきだ」等、真逆の報道が溢れています。Meetings Industryにも大きく絡んでくるこの問題に対して、リテラシーを持つというのはどういうことなのか、考えたいと思います。
References
関志雄(2015) 『製造強国』を目指す『メイド・イン・チャイナ2025』計画 独立行政法人経済産業研究所
東川静香(2017)『 国際会議運営業界におけるTIリテラシー教育』修士論文 関西大学
東川 静香
日本コンベンションサービス株式会社
MICE都市研究所 研究員
2008年より、同社にて国際会議運営における海外担当に従事。2017年、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程 前期課程通訳翻訳領域において修士号(外国語教育学)取得。
所属学会:日本通訳翻訳学会 会員