コラム

2023.09.19

【MICE都市研究所 レガシーレポート No.1】MICEレガシーの創出 - G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における地域住民のボランティア参加を事例に


国際会議の開催にむけて

2023年5月末に観光立国推進閣僚会議で決定した新時代のインバウンド拡大アクションプランでは、アジア最大の国際会議開催国としての地位を確立し、国際会議件数世界5位以内を目指すという目標が掲げられました。これに向け、開催地としての誘致競争力や魅力を向上させる機運が高まり、開催地の受入環境の整備がさらに進められるものと考えられます。
こうした取組においては、主催者や都市のコンベンションビューロー※1だけでなく、住民や事業者など地域の人々がMICE※2の価値や意義を理解すること、そして一体となった取組を継続することが重要です。
MICE都市研究所では、MICEに関わる産・学・官・地域をMICEコミュニティとして、MICEに関わる人材や組織の強化を目指した研修や調査を行っています。また、人々との出会いから生まれるビジネスの新たな機会やイノベーションの創出など、MICEが開催地にもたらす好影響(レガシー)に注目し、これに関する調査も行っています。

※1 コンベンションビューロー:国内外から観光客や国際会議を始めとしたMICEを誘致することを目的として、自治体や民間企業が中心となって設立された組織のこと

※2  MICE:企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体や学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称

G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における地域住民のボランティアプログラム

本稿では、G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合における地域住民のボランティアプログラムを事例に、MICEレガシーの創出を取り上げます。
G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合は、開催に伴う経済効果が7億円と試算されました※3。また、会合と同時にデジタル技術展が開催され、約100の国内企業・団体が出展し、日本の先進技術をG7各国にアピールするとともに、国際展開や国際連携の促進をねらいました。さらに、デジタル技術展は地域住民にも公開され、モビリティや映像等の最先端テクノロジーに触れる機会が設けられるなど、会合開催による経済効果以外で地域にもたらす好影響があったと考えられます。
さらに、同会合の群馬県のおもてなし事業の一環として地域住民や企業参加型のプログラムが実施され、群馬県内各地から集まったボランティアスタッフは、デジタル技術展の最寄り駅や展示会場内で、国内外からの来場者の案内役として活躍しました。
MICE都市研究所では、開催地の受入環境の整備を進めていくためには、地域住民のMICEへの理解が必要であると考え、MICE開催が地域住民にどのような影響をもたらすのかを把握するために、G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合にボランティアスタッフとして関わった地域住民16人を対象にヒアリングとアンケート調査を行いました。

※3 MICE開催の価値は様々な視点から語られていますが、観光庁では、地域への経済効果、ビジネス・イノベーションの機会の創造、国・都市の競争力向上、交流人口の平準化、レガシーの5つを挙げています。

ボランティア参加の動機

参加動機として多く挙げられたものは、「経験の幅を広げたい」「国際会議という場に携わり、社会貢献したい」、「新しい学びが欲しい」「地域貢献(群馬や高崎の役にたちたい、人に紹介したい)」です。
また、本会合のテーマ(デジタル・技術)だからボランティアに参加したという方もあり、この会合に関わることによってさらに知識を得たい、理解したいという方もいらっしゃいました。

ボランティア活動後の評価

本活動後の評価については、「経験の幅を広げることができた」が最も多く、「新しい学びが得られた」「新しい人との出会いがあった」が続きます。「新しい学び」について具体的には、地域や会合テーマについての知識や情報が得られたこと、表からは見ることのできない国際会議を支える人々の苦労を垣間見ることができた、関わる業種などを理解することができたという声がありました。
また、活動を共にしたボランティアや展示会来場者や出展者との交流が有意義であった、一緒に活動したスタッフと今後も交流したい、との声が寄せられています。
さらに、今回ボランティアスタッフとして参加された方の多くは、高い語学力をお持ちであり、そうした能力を活かして社会や地域貢献をしたい、今後国際会議等に関わって国際交流の機会を得たいという声もあがっています。
また、ヒアリングでは、調査対象の半数以上が様々なイベント等でもボランティアスタッフとして活動された経験があり、それらの経験をもとに積極的な提案や意見が寄せられました。ボランティアプログラムの設計においては、活動の目的や方針はもちろん、なぜその活動をボランティアスタッフに行ってもらうのか、参加するスタッフがどのようなスキルを発揮できるのか、時間と引き換えに何を得ることができるのかなどを具体的に描くことが必要です。また、ボランティアという言葉のもつ意味“志す”“進んで行うこと”を踏まえ、スタッフの自発性、創意工夫を活かすことによって、ボランティアスタッフとプログラム企画側の双方にとって有意義なプログラムが設計できると考えます。

ボランティアプログラムのこれから

今回の調査から、ボランティアスタッフとしてMICEに関与した地域住民は、地域貢献、人と人との交流、新たな学びや経験をする機会を得たことが示されました。
しかしながら、MICE開催によってこうした機会や効果が必ずしも生まれるわけではありません。地域としてMICE開催によって、どのようなレガシーを創出したいのか、また開催による効果を最大化するためにはどのようにしたらよいのかなどを、あらかじめ検討し、目的とするレガシーを生み出すプログラムを設計することが重要です。なぜなら、こうした過程でMICEコミュニティの中でMICE都市としてのビジョンや目指すレガシーを共有することができるからです。
さらに、レガシーは一度のMICE開催で創出できるわけではありません。様々な立場や人が関わりながら継続的にプログラムを実施することで、開催地のMICEコミュニティがMICE開催の意義をより深く理解する機会が生まれ、受入の機運の醸成や環境の整備につながると考えます。

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